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| 第９話 リスト 一人住まいのＮさんが、無料でふとんの清掃・消毒をしてくれる という業者を家にあげたのは、数週間前のことでした。業者はＮさ んのふとんを点検して、 「これはひどい、こんなにひどく痛んだ布団は初めてだ、今すぐ にでも布団を替えないと命が縮みますよ。もう、若くはないんだか ら、重病になる前にこちらの布団にしなければだめです。さもない と、、、。」 というような話をしました。ちょっと健康に自信のなかったＮさ んは、言われるままにその高価な布団を買ったのでした。 ３０万円でした。 ところが、嫁に行った娘さんが専門家に鑑定を頼んだところ、せ いぜい、３万円ほどの価値しかないというのです。 Ｎさんががっくりきているのを、娘さんがしきりになぐさめてい ます。 「世の中には悪徳業者もいるから、しょうがないよ。お母さんの せいじゃない。これからはそういう業者にひっかからないように、 お互い、気をつけていきましょうよ。今度からなにか変だなと思っ たら、購入を決める前に、私にも電話してみてね。」 翌朝、Ｎさんに弁護士と名乗る人から電話がありました。 「おたくに悪徳業者が高価な布団を売りつけたという話を聞きま した。私は弁護士で、そういう悪徳業者を撲滅するための運動をし ています。」 Ｎさんは、だまされた怒りもあって、そのような活動を展開して いる弁護士をありがたくうれしく思って、娘にも話せなかった心の 底のわだかまりの全てを打ち明けました。すると、弁護士は、 「お気持ちはよくわかります。そこで、二度とそのような詐欺に 合わないようにするために、御利益のある壺があります。これを玄 関に置くだけで、悪徳業者を寄せつけないのです。ぜひ、玄関にお いてください。効果は私が保証します。価格は３０万円です。」 Ｎさんは、壺を購入して玄関に置きました。これで娘にも迷惑を かけずに済むと思い、こんないい話は今度、娘が来たときに話して びっくりさせてやろうとだまっていたのですが、結果としては、布 団の件に引き続き、壺の件も警察に被害届けを出すことになりまし た。 さて、それから数週間して、警察の方から来たという身なりのき ちんとした女性がＮさんの家を訪ねてきました。 「おたくで出した被害届けが私の所属する『違法契約防止委員 会』に回ってきました。この委員会では、過去から現在までのたく さんの詐欺に合われた方の違法な契約書を吟味し、その共通点を 探ってきました。そして、詐欺契約を防止する決定的な方法を発見 したのです。」 Ｎさんは、そんないい方法があるなら、私の方こそ教えてほしい と思い、居間に招き入れてお茶を出しました。 「その方法というのは印鑑です。科学的研究の結果、違法契約に 使用されている印鑑は全て印相が悪いということが判明しました。 そして、苦労の末、違法契約を防止するための印鑑を発明し、その 普及に努めているのです。ちょうどＮさんの印鑑もできたばかりで すので、急いでご連絡にあがったというわけです。」 Ｎさんは購入することにしました。価格は３０万円でした。 それから、数日、Ｎさんにダイレクトメールが届きました。差出 人は「○○市消費者相談会」となっています。 開けてみると、いろんな人々が詐欺にあって苦しんだ体験談が書 いてありました。そして、あなたも苦しい胸の内を打ち明けて、悩 みを解消しませんかというサークル活動の場所と日時の紹介があっ たのです。 Ｎさんは、買ったばかりの印鑑をもってでかけていきました。こ れがあれば、だまされないはずです。 集まった人々は口々に苦しかった体験を話し、でも今は平穏に暮 らしているので幸せだといいます。 Ｎさんもこれまでだまされた体験談をしましたが、でも、未だに あきらめきれないで悔しい思いをしています、、、と涙をこぼしま した。 サークル活動の休み時間になると、みんなお茶を飲みながら、両 手で紫の袋を大事そうに包み込んでいました。聞けばこの袋には心 の悩みを解決してくれる水晶球が入っているのだそうです。 ３日後、Ｎさんは水晶球をなでていました。３０万円でした。 次の日、Ｎさんが買い物から帰ってくると、家の前に「○○警備 保障」と書いた車が停まっていました。玄関には、その会社の従業 員らしい人が青い服をきて立っています。 「失礼します。私、こういうものです。」と名刺をだしました。 どうも、最近、テレビで盛んに注意を促しているピッキングによ る空き巣ねらいを防止するシステムを開発している会社のようです。 「当社の防犯カメラとコンピュータシステムは、詐欺常習者の顔 を認識して警告する機能もあります。これは迷信や気休めとは違っ て、実際の詐欺犯罪者の顔をデータベースとして持っていて、訪問 者の顔をそれと照らし合わせることで警告を発するという科学的な システムです。カメラが３０万円、コンピュータが３０万円、警備 システムが３０万円と非常にお安くなっています。」 Ｎさんは購入することにしました。警備保障会社の人は、カメラ とコンピュータを設置すると、Ｎさんに使い方をていねいに説明し てくれました。操作はとても簡単でした。そして、 「犯罪防止情報をインターネットを通じて毎日配信しますので、 末永くご利用のほど、よろしくお願いします。」 と言って帰っていきました。 コンピュータに配信されてくるのはほとんど商品カタログでした が、興味深いものが多く、高額商品もいくつか購入しました。 Ｎさんは、なんとなく、最近は運が開けてきた感じがしていまし た。 ある日、１通のメールが届きました。差出人は「個人情報保護協 会」です。 「突然のメールで失礼いたします。しかし、非常に重要な情報で すので、ぜひ、最後までお読みになってください。 私どもの協会は、不当に得た個人情報を売り買いする名簿業者を 摘発する組織です。 Ｎ様、びっくりなさるかもしれませんが、Ｎ様のお名前、住所、 電話番号を初めとして、これまでの高額の買い物についての情報が 全て記録された名簿リストが商品として売り買いされています。悪 徳名簿業者の間では、こういうリストは「かもリスト」と呼ばれ、 詐欺の標的として悪用されています。この情報を名簿リストから削 除しない限り、これからも一生、だましつづけられることになるで しょう。そうならないためにも、完全に名簿からＮ様の情報を消去 する必要があります。 それができるのは、当協会しかありません。費用は、国内の全て の名簿からの消去としては格安な３０万円です。たったこれだけで、 いままでのだまされ続けた生活が終わるのです。お申し込みは、下 記ＵＲＬをクリックして下さい。」 Ｎさんは、「だまされ続けた生活」なんて失礼だわと思いました が、そんな名簿に登録されていたというのはくやしい思いでした。 羽毛布団や壺のときのような詐欺販売を腹立たしく思い出し、ＵＲ Ｌをクリックする指にも力が入りました。もちろん、すぐに申し込 みました。 まあ、最近はだまされることもなくなったんだけど、、、。 ＬＭ |
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