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| 第４話 無神経な行列 シャカシャカ、トチトチ、シャカシャカ、トチトチ。 奇妙な音で目が覚めた。枕の下から、その音は聞こえてくるよう な感じだった。 シャカシャカ、トチトチ、シャカシャカ、トチトチ。 独り暮らしの女子大生の下宿。木造の２階、南西の４畳半の部屋 である。まだ、夜中だ。こんな異様で力強い音は、１９年の人生で 一度も聞いたことがなかった。 シャカシャカ、シャカシャカ、シャカシャカ、シャカシャカ、 シャカシャカ、シャカシャカ、シャカシャカ、−−−−−−− 抑揚のない一定の音が、続いている。何か異変がおきている。起 き上がり、電灯の紐を引っ張った。 枕のすぐそばに黒くて長いテープがおちていた。そのテープは西 の窓から枕のうえを通り、直角に折れ、南の窓につづいていた。音 はテープから聞こえていた。しゃがみこんで、テープを拾おうとし て、体が凍りついた。 それはテープではなかった。蟻である。何万何億という蟻が、触 覚を震わせながら歩いているのだった。頭も胸も腹も、つやつや黒 々とした大きな蟻の大軍だった。シャカシャカという音は、蟻の足 音だった。 その行列は、どこから来て、どこへ行くのか。窓を開けて確かめ てみたが、行列の端は全く見えないほど、延々とつづいていた。 ただはっきり言えることは、私の部屋は、蟻の行列の通り道だと いうことである。 何も考えず、誰かの意思にコントロールされたように歩き続ける 群衆は、部屋の主が目覚めたことも、全く意識していなかった。 私の中にわいてきた感情は「怒り」だった。この無神経な連中に たいして、蠅ハタキを振り落とした。何度も何度もその度に、黒い ごまつぶのような死骸がコロコロころがったが、他の連中は、仲間 の死などまったく関係なしに、行進をつづけていた。 窓にガムテープをはり、蠅ハタキを振り下ろした。夜が明けるま で殺しつづけても、畳と畳の間に、窓枠に、蟻は潜んでいた。 蟻が私の部屋から、完全に撤退するまでに、四、五日かかった。 少女のころは、本当に虫も殺せない子だったのに、あれほど私を怒 らせた蟻たち。二十年たって、ふと、思い出したできごとである。 みり、 |
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